いわゆる(陳腐という意味での)B 級映画において,ミステリー(謎)は最も相性の良い素材だ。
B 級ミステリー映画には,秀逸なミステリー映画よりも優れた点がある。それは,序盤から中盤にかけての引き付け方だ。大抵の場合,傑作・秀作よりも B 級ぐらいの方が序盤はワクワクする。なぜかといえば,「後始末」を考えていないからだ。
ミステリーの序盤から中盤というのは,観客にとっても深読みをする段階だ。何ら巧妙さがなくても,あれこれ勘繰るからそれなりに緊張感がある。だからこのあたりは,あまり脚本の巧拙が出ない。むしろ,最後まで展開を計算して,巧妙なオチを考えている映画ほど,このあたりは地味になりやすい。ちゃんと後始末を考えているだけに,無茶が出来ないのだ。
B 級ミステリー映画の特徴は,序盤にやたらと謎を盛り込んでくるところにある。どうやって伏線を回収するのだろう,とワクワクしていると,中盤あたりから心霊などの超常現象,あるいは精神錯乱・幻覚といった何でも解決できる原因を持ち出し,あとは一本調子なスプラッター的展開で終わったりする。
映画というのは一作品の体験時間が比較的短い媒体だから,B 級の良さを楽しめる時間も短いし,この手の物はすぐに駄作かせいぜい凡作であることがバレてしまう。あくまでも前半だけを楽しむつもりで観ているなら別だが,普通に観てしまうととにかく退屈な後半の印象だけが強く残るので,作品として高い評価は得られない。しかし,この B 級ミステリー最大の見所である「オチを考えていないことがバレるまでの展開」を,何年にも引き延ばしてみたらどうだろう。
多分,それで成功したのがアメリカのテレビドラマ『LOST』だったのだろう。あの作品ぐらい長いあいだ視聴者を引き付けていれば,始末のつけ方はともかく良い娯楽を提供していたとは言える。
反対に,演出の起伏に乏しく,謎と緊張感が物語の最後を通り越して余韻までゆっくり持続する映画もある。その種の名作がクリント・イーストウッド監督,アンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』だろう。実際の失踪事件を元にしたこの映画は,展開こそ地味なのだが,映像と音楽の美しさもあって主人公を取りまく謎にずっと没入していられる。これは流石イーストウッドとしか言いようがない。