{希哲社}{虎哲*ツバメ}{Linux}{時記}{技術}{公開}(6)

{希哲社の Linux 戦略と虎哲*ツバメ K#F85E/3CB4}

最近,マイクロソフトLinux に対して友好的になったという話をよく見かける。

長年 Linux を敵視してきたかのように見える同社だが,当然 Linux を利用するための研究や準備はしてきただろう。Linux の可能性を認めていても,それを表明することは(まだまだ売れる)競合製品を有する自社の利益には繋がらないわけで,表向きは軽視あるいは敵視という態度を取っていたに過ぎないのだと思う。そう考えれば,この時期に態度を変化させてきたのも無理はない。もはや GNU/Linux を中心とする OSS 勢力の可能性は誰もが認めるところであり,マイクロソフトの強がりにも限界がある。

Linux は1990年代後半から,Windows を超えるという期待を背負ってきた。90年代末から0X年代序盤にかけての第一次 Linux ブームは,過大な期待から幻滅に終わった。しかし,0X年代後半になって Ubuntu が台頭し,第二次 Linux ブームが生まれる。この世界にいてまともな見識を持っている人間なら,遅くともこの時点で Linux の可能性を認めざるをえなかった。マイクロソフトは毀誉褒貶激しいが,それが分からないほど無能な企業でもなかっただろう。

0X年代以降,新たなプラットフォーマーを目指す合理的な企業にとって,Linux は自社製 OS の基礎として最有力候補だった。なかにはカーネルから書き上げて新しい OS を作ろうとする者もいたが,これはまったく非現実的だった。プラットフォームに求められるものが高水準化したため,深部から積み上げていく「積み上げ式」開発では表層(プレゼンテーション)に辿りつくまで体力が持たない。したがって,より訴求効果の大きい表層から始めて,余力をみながら深部に向けて掘り下げていくという「掘り下げ式」開発が有力になってくる。

アプリケーションについては,当面ウェブで補完すれば良い。これを実践して大成功した新興企業が,他でもないグーグルだった。アップルのように,ある程度の基礎が出来ている企業なら手を加えることを前提に FreeBSD 等を採用してもいいが,新しい企業のよりどころとしては Linux 以上のものがなかった。

希哲社と Linux

私も,第一次 Linux ブームの真っ只中,2000年頃から Linux に触れはじめた。希哲社の創業は2007年だから,そのかなり前から Linux 周辺の素養があったことになる。

そんな背景もあり,希哲社はもともと OSS開素想品を基礎に OKS開知想品の確立を目指した想品ソフトウェア開発を収益上の中核事業として始まったので,当然ながら Linux を最大限に利用してきた。私が主に使ってきたのは Slackware で,これに独自開発の想品群を載せて原型をとどめない OS になっている。

希哲社が開発する主要な想品には「虎哲」という統一名称がある。これは OS から基礎的なアプリケーションまでを高度に統合した単一のシステムで,「知機(knower)と呼ぶ標準規格の一実装という位置付けだ。もちろん,開発途上では様々な要素を分離して,単独で開発・実験・利用できなければ現実的には継続困難になることが明らかだ。そこで,最終的な統合形態である「真名版(まなばん)を目指す個別のプロジェクトを「仮名版(かなばん)と呼び,その名の通りカタカナで適当な殊名コードネームを付けている。Multics 的な統合性と Unix 的な単純性の両立というこの考え方は「Synx」とも呼べる。

この仮名版は実験的なものも含めて数十個あるが,その中の一つに,Linux 採りディストリビューションも含まれている。これを「虎哲*ツバメ」と呼んでいる。仮名版の命名規則に「漢字一字で表現できる大和言葉であること」があるので,Linux マスコットのペンギンに似ているということと,フライング プラットフォームという,希哲社が提唱する新しいプラットフォーム戦略を表現できることから付けた名前だ。

ツバメの開発には段階があり,まず一から Linux 環境を構築する SLFS と,それによって一般的な Linux 環境を提供する Synicware(シニックウェア)があり,その上に虎哲独自の想品群を被せる。従って,特に何系ということはないが,基本は LFSSlackware の流儀を参考にした採りということになる。このような段階に分けることで,例えば SLFS や Synicware を Linux 学習用の教材として取り出すことも出来るし,多様な需要に応じることも出来る。教材としては実際に『復生*機算大全』で利用する計画だ。

プラットフォームは空を飛ぶ

フライング プラットフォームというのは「空飛ぶプラットフォーム」という意味になるが,空を飛ぶような軽快さで,極めて導入しやすいプラットフォームを指している。これは,入手しやすさ・価格の低さ・理解しやすさ・引装(インストール)しやすさ・試用しやすさ・サポートの得やすさ,など様々な要素を総合的に追求しなければ実現できない。例えばコンピューターに詳しくない日本人でも,CD を入れれば試用出来るような手軽さが必要だ。Linux はライブ CD としての利用が活発に行なわれているが,日本国外で開発されているものが殆んどなので,日本人が利用しやすいとは言えない。

このフライング プラットフォームの開発と両輪で,これに特化した想品を開発していくというのが,つまりフライング プラットフォーム戦略で,希哲社はクロスプラットフォームの問題を解決する戦略として重視している。

これまで想品開発者たちは,様々なプラットフォーム上で同じ想品を動かすための工夫に多大な労力を費してきた。これがクロスプラットフォームだ。フライング プラットフォームの発想はむしろ逆で,「一つのプラットフォームでしか動かないとしても,そのプラットフォームが極限まで導入しやすければ良い」というものだ。腰の重いプラットフォーム間を行き来するのではなく,一つのプラットフォームを軽やかに飛ばしてしまえばいいわけだ。

この新戦略によって想品開発は劇的に効率化する。コードは単純に保たれ,テストにかかる時間は短縮され,最適化は捗る。動くか動かないかではなく,より訴求する想品の開発に注力することが出来る。

希哲社の情報関連事業は,独自想品やサービスの開発・販売に限らず,最近見直されてきている受託開発から,サーバー運用,働品ハードウェア開発・販売,出版広告等々と幅広い。あらゆる面からフライング プラットフォームの普及を推進することが出来る。

もちろん,虎哲*ツバメは無料配布だ。説明書付きの CD や DVD でのパッケージ販売も予定しているが,想品自体は実質無料の価格になるだろう。利制(ライセンス)KUL(クール,Kitetukan Universal License)だ。