言葉の誤用には色々あり,中には新しい意味として認めるべき誤用というのもある。「ホームページ」はもはや誤用ではない,と以前書いたのは擁護の例だが,全ての誤用が正当化出来るわけではない。私がそう考えるのは「課金」の誤用だ。
「課金」とは「金を課する」という意味の語だ。つまり,サービスなどの提供者が利用者に対して料金を課するという意味で使う。しかし,これが提供者に対して利用者が料金を支払うという意味で誤用されるようになった。インターネット上のサービス説明などで「課金」という語が使われることが多く,これが低年齢層を中心に誤解されたことによるのだろう。
この誤用が許されないのは漢字の意味を無視しているからだ。日本語の語彙の多くを構成している漢字が正しく使われなければ一貫性が失なわれ,旧来の語の理解も難しくなり,今後の日本語の発展にも悪影響を与えかねない。しかし,「課金」の言い換えは思いのほか簡単な問題ではない。「料金を納める」という意味だけなら「支払い」や「納金」などいくらでも代替語は考えられる。現に提供者の事務的にはこれらの語で済んでいて,特に新しい表現を考える必要はない。実は消費者たちの間で使われる「課金」にはそうした事務的な表現に収まらない意味があるのではないかと思う。
誤用としての「課金」はいまでは一種のネット乱語〈スラング〉になりつつある。もちろん単純に間違っているだけという場合もあるが,幼稚な誤用であることをあえて皮肉に利用している場合も少なからずある。つまり,ソーシャル ゲームの課金のように,傍目には下らないことに金を投じている者を揶揄したり,当事者による自虐の意図でも使われている。そういう場合に「課金」というのが丁度いい語感を持っているのも確かだ。この部分をいかに取り出すかが問題になる。
そこで私は「貢金」(こうきん)という表現を考えた。着目したのは,「課金」とともに使われることも多い「搾取」や「貢ぐ」という表現だ。これらは「課金」の誤用にどのような含みがあるか,ということをよく示している。「貢金」ならば,「課金」の誤用を正しつつその真意を上手く表現出来そうだ。