むすびあわせ
一昨日の一日一文で私の変わった“金銭欲”ついて少し触れたが,これが実は希哲館事業の核心に近い要素かもしれない。
希哲館事業にはもともと,“資本主義と共産主義の綜合”という目標が含まれている。その新しい経済思想を「相通主義」と呼んでいた。この名前も最後に見直したのがだいぶ前なので,もう少し良い名前がある気もするが,しばらく仮称としておこう。
相通主義というのは,資本主義の流儀に則って共産主義の理想を(本来の共産主義とは別の形で)実現してしまおうという考え方だ。その鍵になるのが「相通化技術」と呼ぶ技術で,情報技術と交通技術に大別される。希哲館事業では,その情報技術を「虎哲」,交通技術を「竜力」と呼び,開発計画を「竜虎計画」と呼んでいた。
その虎哲の核心となるのが輪郭法で,デルン,デライトとなっていく。こう階層的に整理してみると,希哲館事業構想がいかに巨大か分かる。「人類史上最大の事業構想」というのも伊達ではない。事業の全体像を簡単に説明しておこうと思うだけで,本題について忘れそうになる。
そんな希哲館事業で私がやりたいことは,簡単に言ってしまえば,“世界史上最大の企業”を作って雇用を万人に開放することだ。これを「基礎雇用保障」(BW)と呼んでいる。「基礎所得保障」(BI)の代替策だ。
BI は昔から考えられてきたことだが,小規模な実験以外で実現の見通しは立っていない。いくつかの理由で,一定規模以上の国家で実現することは困難と私は見ている。
BI は社会の構成員に大きな考え方の転換を迫る。それも,持続的でなければ意味がない。やってみたが,やっぱり戻そう,という動きも当然考えておかなければならない。その割に,哲学的な弱さがある。利点とされていることも大半は希望的観測でしかない。
それに対し,BW は思想転換も政治的合意も必要としないという大きな利点を持つ。その代わり,万人に雇用を提供出来る企業を創り出さなければならない。
私はよく GAFAM を意識したようなことを語っているが,実際,この構想は GAFAM を大きく越えるような企業でなければ実現出来ない。しかし,それは不可能なことではない。
知識産業はこれまで考えられなかったような格差を生み出す。企業間も例外ではない。ついこの間まで,GAFAM の株価が東証一部上場企業全体を上回り,米国政府と対立することなど考えられなかった。その GAFAM 全体を一社で上回る企業が出てこないとも言えない。
究極の格差を制することで世界に平等をもたらす。この BW という考え方は,世界史上最大の富を生み出そうという意欲と,人並の収入があれば満足に暮らしていけるという価値観を両立させた人間にしか生み出せないものだと思う。
今日は仕事でもない中途半端な用事で出掛ける必要があり,疲労の蓄積(特に脳疲労)も気になっていたため早めの休日にした。
早朝は雨だったようだが,出掛ける頃にはよく晴れて気持ちの良い天気だった。デライトの春,希哲館の春を予感させる陽気の中をぶらぶら歩き,散髪もして,非常に良い気分転換が出来た。
ぶらぶらしながら,希哲館事業の原点である「閃き」についてよく考えた。あの体験がなぜ輪郭法を生み出したのか,いまだに上手く言語化出来ていない。
閃きの瞬間,射雨が身体を伝わり,排水溝に流れていくのをじっと見つめていた時の感覚はいまでもよく憶えている。その直前,概念の塊が頭の周りに浮かんでいるような感覚もあった。これはデルンの用合いの原型になっている。
いま思えば,水が道を作って川となるように,絶え間なく続く流動が,静的な観念に通り道を作ったのかもしれない。それが脳内の信号の流れにも一致すれば輪郭法が出来るわけだ。
そこから瞬く間に「相通化技術」を中心とした希哲館事業の青写真が出来た。「流」は仏教的な「空」とプラグマティズムその他諸々を綜合したような概念となり,東西思想の統合を予期させた。人生観も世界観も,全てが一変した。
そんなことを考えていると,いま言う黄金循環すらあの時に見た排水溝が作る渦のように思えてくる。
実益から最も遠く,休日でもなければそう出来ない,しかし極めて意義深い考え事だった。デライトの成功,希哲館事業の成功も目前という時期だから尚更だ。