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{「良作」と「佳作」の違いについて K#F85E/772A}

何らかの作品を評価するとき,大体,評価の高い順に名作傑作秀作良作佳作凡作駄作などという表現が使われるが,このうち,良作と佳作の違いがとても微妙だ。

秀作・凡作・駄作にはあまり疑問の余地がない。名作・傑作は,極めて優れた作品を傑作として,そのうち高い名声と実質が一致しているものを名作とするのが適当だろう。言い換えれば,評者がその作品の名を永遠に残すに値するものとしているわけで,傑作よりも厳しい条件があると言える。しかし,名作を単に傑作の上位と位置付けてしまうと,やや問題がある。例えば,甲乙つけがたい無名の傑作と有名の傑作があったとして,有名な方は名作と呼べるのに無名な方は名作とは呼べない。これは単に,世間の評価の差であって,内容の差ではない。つまり,評価軸が混在していて,直線上に並べようとすると矛盾が起きてくる。だから,「名作は傑作の一種」としておくのが無難だろう。

もっとも,名声というのにも,老若男女だれにでも知られているという大衆的なものから,一般には知られていないが,その道に精通した人なら誰でも知っているというものまで色々ある。少なくとも,名作の評価に「国民的人気」とか「世界的人気」が必要というわけではなさそうだ。だから,「隠れた名作」なんて表現があるのだろう。

似たような問題で,さらに難しいのが良作と佳作の違いだ。調べてみると「良作は佳作の上」という見解が意外に多い。個人的に,これには強い違和感を覚える。「良」も「佳」も「よい」と読める漢字で,字義の上では,「良作」と「佳作」に明確な上下の差はない。強いていえば,「良」というのは広い意味での「よさ」であって,佳というのは「(華美ではなく)整った美しさ」という意味を含んだ「よさ」のことだ。つまり,上下ではなく性質の問題であることになる。

私は,名作・傑作の問題と同様に,「佳作は良作の一種」で,「美しい良作のこと」なのではないかと考えている。評価の高さということであれば,条件が厳しい分,「佳作は良作の上」ということになる。実際,何かを「良い作品」と評するのは大雑把で気軽に出来るが,「美しい作品」と評するのは少し考えてしまう。

もちろん,ここでいう「美しさ」というのは,華々しさや,形だけの美しさのことではない。「佳」という漢字に含まれているのは,どちらかというと,古代ギリシャ的な均整美のことのようだ。健全な美しさというところから,道徳的な意味での「よさ」を含んでいる点も似ている。真善美の一致という考え方もあるし,「ドブネズミみたいに美しくなりたい」という感性もあるわけで,何を美しいとするかは評者の価値観次第ということになるだろう。反対に,醜いとか粗悪だとか思っても,それがかえって良いと感じる作品はあるから,美しく良い作品と美しくはないが良い作品という分類にも意義がある。

ここまでの結論としては,作品の質はおよそ傑作・秀作・良作・凡作・駄作の五等級に分けられ,さらに傑作のうち名声が伴うものは名作,良作のうち美感が伴うものは佳作,ということになるだろうか。