何らかの演力〈エネルギー〉から動力を得る機械をエンジン〈engine〉と言う。最近では「検索エンジン」などとも言うように,勘機〈コンピューター〉の特定用途で中心的な役割を担う仕組みを「○○エンジン」と表現することが増えてきた。現代で単にエンジンと言うと乗り物を動かすものとイメージされることが多いが,その原義は「能」で,古くは「仕掛け」という意味でも広く使われていたようだから,思いのほか応用範囲が広そうだ。
私は,このエンジンに「演心」という訳語を与えている。この言葉に伴う現代的なイメージを保ったまま,出来るだけ幅広く使えそうな訳語にしたかったので,「中心的な役割を演じるもの」をそのまま漢語的に表現した。
エンジンから派生した語に,エンジンを作る者の意で「エンジニア」や,エンジニアの技術・知識の意で「エンジニアリング」があるが,私はそれぞれに「演事人」,「演事」という訳語を造り当てた。
日本語では伝統的にエンジニアリングを「工学」あるいは「技術」とし,それに携わる者を「工学者」や「技術者」と訳すが,これらの語に固定的なイメージが伴うためか,新興分野などではカタカナ語のまま使われていることも多い。このような場合,より原語の意味に近い表現として演事や演事人という訳語が使えるだろう。
ちなみに,「演」という漢字は翻訳上非常に使い勝手が良い字で,他にも,エネルギーを「演力」,エンターテインメントを「演待」,エミュレーションを「演象」などと訳している。特に,エネルギーとエンジンは強く関連する語なので,これを演力・演心と調和的に表現出来ることは日本語にとって重要なはずだ。