フォックス
Philosophical and open-knowledge software
希想品(フィロソフトウェア)と開知想品(オープン ナレッジ ソフトウェア)の併称。
FLOSS を基礎に,前進させたもの。
希哲館の「目的」は一つだが,「目標」には様々なものがある。希哲館とは,いわば現代の諸問題を解決する交差点なのであって,あらゆる問題解決に必要な共通点を具体化した機関だといえる。
その一つが,フリー ソフトウェア(free software)やオープン ソース ソフトウェア(OSS)を指すいわゆる FLOSS を,フィロソフトウェアとオープン ナレッジ ソフトウェアの PHOKS(フォックス,Philosophical and Open Knowledge Software)に発展させるためのコミュニティを確立することだ。つまりこれは,FLOSS におけるフリーソフトウェア財団に近い役割を,PHOKS において担うことだ。
情報技術者としての私は,ほぼ FLOSS コミュニティで育っているので,FLOSS の問題も当然把握している。特に重大だと感じているのは「知的結合の弱さ」という問題だ。FLOSS では,ソース コードこそ共有されているが,知識が共有されているとは言えない。その大部分は散漫で,学習可能性や理論的整合性に欠けている。開発資源が不必要に分散しがちで,プロジェクトも粗製濫造される傾向にある。もちろん,挑戦が多いのは良いことだが,問題は意思疎通が出来ていないことだ。ある程度の水準までは FLOSS で実装されるが,その先に進む蓄積が出来ない。結果として,FLOSS は独占想品(プロプライエタリ ソフトウェア)の後追いに留まり,営利企業の専横にも抗えない。はっきり言えば,FLOSS はその理想に対していまだに無力であり,次の段階(ステージ)に進む必要があるということだ。
この状況を改善し,想品開発における新しい主流を確立すべく希哲館および希哲社が推進するのが PHOKS だ。PHOKS では,ソース コードの共有よりも知識の共有を重視する。そのための利制(ライセンス)体系が KUL(クール,希哲館普通利制)だ。これは,コピーレフトならぬ「コピーリフト」(copylift)という考え方に基いている。
コピーリフトは「合意主義」とも表現するが,基本的に権利者の意志と対話を尊重する。したがって,ソース コードの非公開という選択肢も許容する。そのかわり,コミュニティへの参加を最低条件とし,これによって相互認知の可能性を確保する。つまり,誰が,どのように想品を利用しているのか,ということを相互に認識しやすくする,情報交換しやすくするということが重要というわけだ。それにより,権利者が自発的に情報公開の道へ進むことを期待する。コピーリフトの「リフト」には,哲学でいうところの「止揚」という意味を含ませている。
GPL 最大の功績は,少なくとも独占的利用を考えない限り,自由に再利用し,また自由に再利用され続けることが保証されるある種の経済圏を作ったことだ。Windows 等のフリーソフトのように,無料であっても権利者がばらばらに規約などを設定している場合,再利用のために個別に許諾を得なければならない。これでは再利用による新しい製品・サービスの創出を一般的なものにすることは実質的に不可能だ。GPL は,提供者・利用者間の関係を極めて単純化し,再利用にかかわる人的な煩わしさをばっさり省くことに成功している。KUL でもこの点を重視し,柔軟性を確保しつつ円滑な再利用を可能にする仕組みを考えている。
PHOKS は究極の想品形態であり,将来的にはそれが空気のように当然のものになるだろう。しかし FLOSS がそうであったように,PHOKS を普及させるためには,哲学的基礎の確立,法的妥当性の確保,コミュニティの経営,そして何より魅力的な想品の蓄積といったとてつもない努力が必要になる。フリーソフトウェア運動には約30年の歴史があるが,「フィロソフトウェア運動」はまだ始まったばかりだ。