「プラットフォーム」と「アーキテクチャー」をどう訳すか

描主宇田川浩行#F85E
上描き希哲11年(2017年)
08月18日 01:49
下描き希哲11年(2017年)
08月16日 15:35
利承
ライセンス
希哲館普通利承(KULクール

システムの翻訳語「司組」を発見してから,私は似た場面で使われる「プラットフォーム」〔platform〕と「アーキテクチャー」〔architecture〕に対する訳語の仕上げを急いだ。そして,二つの訳語,「盤本」(ばんぽん)と「影基」(えいき)を見出した。

システム,プラットフォーム,アーキテクチャー,これらは物事の大局組織基盤構造というそれぞれ別の視点から捉えた概念だが,物事を広い視野で捉え,未来を大きく構想する,ということは現代日本人が苦手としてきた分野でもある。そうした概念を日本語で噛み砕き消化することの意義は極めて大きいと言っていい。

私はソフトウェア想像製品,すなわち「想品」(そうひん)と訳したが,知識産業,特に想品産業において構想力ほど重要なものはない。脱工業化時代における日本の成長を阻んでいるのは他でもない,構想力の欠如だ。「司組」・「盤本」・「影基」といった訳語は,これからの日本人の構想力を基礎付けるものになるだろう。

「盤本」としてのプラットフォーム

さて,プラットフォームの原義は「平地」であり,これが物事の土台という意味で使われるようになった。

最終的に私が採用した訳語は「盤本」(ばんぽん)だ。「」の字義は「平らな器」とみられ,そのような形状をしたもの(円盤岩盤),平らな台(碁盤),土台(地盤基盤)などといった意味で幅広く使われる。ちなみに,中国神話における創造神の名は「盤古」という。

最初に思いついた訳語は「羅本」(らほん)で,2年以上前に記録されている。漢字の「」はを捕まるという意味で,多くのものをとらえること(網羅)や,多くのものが並ぶこと(羅列森羅)の意でも使われる。「羅の本(もと)」でプラットフォーム,というわけだ。一応こういう解釈は出来るが,やや遠回しな表現で直感的に理解し辛いという問題があり,再考に入ったのが最近だ。

フォームには「」の字を仮に当てておき,プラットにあたる字を探すという方針で,場本(ばほん)・部本(ぶほん)・母本(ぼほん)・汎本(はんぽん),といくつかの案を造ったが,どれも決め手に欠けた。少し趣を変え「普羅」(ふら)という語を造ってみたところ,「」が使えそうだと思ったが,「普本」(ふほん)では語感が抽象的過ぎる気がした。もう少し具体的に「土台」のイメージが湧く方が良いということで「敷本」(ふほん)と字を換えてみても印象が弱い。

あれこれ考えているうちに入り組んできたため,基本に立ち返り,単純明快な「盤本」(ばんぽん)を採用することにした。実は「盤本」も最初の方に思いついていたのだが,「」を前に置くと「本」は「ぽん」と読むのが普通で,フォームの音写としては微妙に難があるように感じたこともあってか,いまいち引っかかりが無く通り過ぎていた。しかし,多数の案と並べてみると相対的にどっしりとした語感があり,そう悪くないように思えてきた。

基本資本といった語が連想しやすいのも良い所だ。基盤の盤に基本の本といえば説明しやすいし,現代において最大の資本が「盤本」(プラットフォーム)であり,資本家が「盤本家」(プラットフォーマー)であるというのも示唆に富む。

最近私は勘機コンピューター)のある側面を,碁盤将棋盤のようなものとして捉えうるのではないかと感じており,これも勘に近いが理由の一つだった。コマンドを「駒手」(こまで)と訳したのが始まりだが,キーボードを「棋盤」(きばん),キーを「棋位」(きい)などと訳す案がある。「」は盤上の駒や碁石のことだ。このあたりが上手く整理出来れば,おまけとして面白い言葉遊びになるかもしれない。

「影基」としてのアーキテクチャー

大まかに言ってプラットフォームが基盤・土台だとすると,アーキテクチャーは全体の構造・枠組み骨組みにあたるものだ。アーキテクチャーは英語で「建築」を意味する語だが,建築術建築学建築様式など建築の知的側面を指す意味合いが強く,これが物事の構造や基本設計一般を指す用法につながっている。

私はこれを「影の基(もと)」の意で「影基」(えいき)と訳すことにした。

」という漢字,あるいはこう書いて「かげ」と読む大和言葉は,単に陰影のような暗い部分に限らず「実体に対する仮象」一般を指して使われる。例えば,月の光を月影(げつえい/つきかげ),おぼろげな人の姿を人影(じんえい/ひとかげ)と言ったり,撮影近影という言葉がある。このような言葉が全て現代の物理学的な解釈から出来ているわけでは勿論ないので,古の人は,ある現象が何らかの実体に対応した仮の姿に見える時にそれを「影」と表現したのではないか,と私は推察する。たとえば,光は光源がつくる幻のように見えたから「影」と呼ばれたのかもしれない。

こう日本語における影という概念を理解しておいた上で,「影基」という訳語の意義をより明確にするのが古典中の古典,古代ギリシャの哲学者プラトンイデア論洞窟の比喩)だ。プラトンは,我々が見ている世界をイデアという実体の影だと主張したことがある。ここでは影基にあたるイデアが,「アイデア」という言葉の由来だ。つまり,影基は「ものの姿が基づく考え」と解釈出来る言葉になっている。

ここに至るまでの道のりは,「プラットフォーム」のそれよりも険しかった。最初に考えた訳語は「案基」(あんき)で,影基に似ているが,この場合のが何の案なのか具体的ではなく,「アーキテクチャー」が持つ「物事の全体像に対する計画」という意味合いが拾えていない。

それからかなりの数の訳語を考えた。握基粗組み(あらぐみ)・案組(あんぐみ)・基工(きく)・粗工(あらく)・粗決め粗築き(あらづき)・粗形(あらかた)・粗立て粗事応基斡基(あっき)・営基衛基鋭基奥基奥構奥築亜基……と,死屍累々だ。

この中で比較的有力だと思えたのが,粗組み・粗決め・粗築き・粗形など「」(あら)を使う案だ。あらすじ粗筋)というように,物事を大きく捉えるという意味ではそう遠くない。問題は,「粗い」という語感が精緻な印象に欠けることだった。粗組み・粗築き・粗形では理論性や計画性が上手く表現出来ていない。かといって「粗決め」では抽象的過ぎて「案基」と同じく何を対象としているのかよく分からない。

「影基」が優れているのは,古典に照らした解釈もさることながら,「影」で物事の全体像を表し,「基」でその確固たる基礎を表すことが出来ている点だ。全体性・理論性・計画性といった,アーキテクチャーを表現するのに最低限必要な要素を全て含んでいる。語音もそれなりに良い音写になっている。流石にこれ以上の訳語は見つからないだろう。

出力論組プログラム虎哲*イチ 1.1号
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