山下ヤスミン『白い雪』と日系ブラジル人音楽の可能性

描主宇田川浩行#F85E
上描き希哲11年(2017年)
04月17日 23:39
下描き希哲11年(2017年)
04月15日 21:22
利承
ライセンス
希哲館普通利承(KULクール

以前,テディ・シゲヤマ(重山テディ)という日系ブラジル人の少年の歌が素晴らしいという描出をしたが(テディ・シゲヤマの『あなたに』が素晴しい),ことの分野では,日系ブラジル人社会は逸材の宝庫かもしれない。

当時10歳のヤスミン・ヤマシタ(山下ヤスミン)という少女が『白い雪』という曲を歌っている動画をたまたま目にして,私は心を奪われた。ここまで歌っている少女の美しさに目を奪われた経験は,『アメリカズ・ゴット・タレント』『私のお父さん』を歌うジャッキー・エヴァンコを見た時以来だ。

一見,素朴なアジア人という感じの容姿なのだが,とにかく表情が美しい。歌唱力があるのは当然として,パフォーマンス全体として芸術の域に達している。

『白い雪』が求めた歌手

この『白い雪』は,松山千春作詞作曲を手がけて香西かおりに提供された曲で,13年前シングルが発売されている香西かおりの「持ち歌」なのだが,あまりよく認知されていない。ヤスミン版の動画では,「香西版を超えた」という評価がよく見られる。

私もヤスミン版の後で香西版を聴いてみたのだが,あらかじめ松山千春が作った曲という知識があったためか,確かに違和感があった。松山千春の特徴である伸びやかで透明感のある歌い方とはかなり異なり,非常に演歌的な息遣いで歌っている。そのせいで,メロディの美しさが分かりにくい。香西かおりの名誉のために言っておくと,別に彼女が下手なわけではない。香西版は香西版で,聴き込めば良さが分かる。

ただ,これは松山千春の作曲意図なのだろうか,とどうしても気になったので,『天才・松山千春のラブバラード』に収録されている松山版を買って聴いてみたのだが,思った通り,こちらの方が歌い方はヤスミン版に近い。松山版ももちろん良い曲に聴こえるのだが,やはりヤスミン版の方が完成されているように感じられる。儚い女性の心情を表現するには松山千春の声は大物感がありすぎ,香西版とはまた別の違和感を覚えるのだ。

これらに対して,ヤスミン版は素直で力強い歌い方に,可憐さが加わって絶妙なバランスを保っている。曲と歌詞の美しさが直接伝わってくるようだ。私が好きな松山千春の名曲『』も,彼女が歌ったらどうなるのか気になるところだ。

日系ブラジル人音楽の可能性

テディにせよヤスミンにせよ,歌の才能のある日系ブラジル人の少年少女は,ブラジルのテレビ番組プログラマ・ラウル・ギル』で注目されることが多いようだ。私も詳しいことは良く分からないのだが,他にも,8歳で『瀬戸の花嫁』を歌い上げて注目されたメリッサ・クニヨシがいる。この番組の動画はよくネット上でも共有されており,彼らの動画も多いものは数百万回再生されている。

そして彼らの歌唱力は,明らかに素人の域を超えている。第一線のプロの歌と比べても聴き応えのあるものが少なくない。例えば,しばしば今の日本で随一の男性歌手と評される玉置浩二『あなたに』を知っていても,たまにテディ版を聴きたくなってしまう。これは凄いことだ。

ここまで来ると,日系ブラジル人社会には何か歌の才能を育むような土壌があるのではないか,と思えてくる。最近,そんなことをずっと考えていたのだが,少しずつその理由が掴めてきた。

私が考えるに,歌における日系ブラジル人の長所は「自然かつ豊かな感情表現」と「日本語の客観視」にある。彼らの歌の魅力は,豊かなのにわざとらしくない感情表現と,丁寧な日本語にある。これは,彼らが置かれている社会環境を考えれば不思議なことではない。

日本で暮らしている日本人は,やはり外国人と比べて日常的な感情表現は控え目だ。こういう日本人が歌で激しい感情を表現しようとすると,どうしても演歌的な「演技」になってしまう。かといって,自然にしていると感情が伝わらない。ブラジルは情熱的な国として知られているぐらいなので,彼ら日系ブラジル人も日常的な感情表現は豊かなのだろう。これが「自然かつ豊かな感情表現」に繋っているのではないかと思う。

もう一つ,彼らの日本語に対する視点は,日本語を母語とする人とは少し異なっている。彼らの母語はポルトガル語で,日本語は外国語として勉強するものだ。日本語をとても丁寧に扱っているのが彼らの歌い方の特徴だが,それは「日本語の客観視」が出来ているからではないかと思う。日本人が英語を一語一語,丁寧にしか話せないのと同じで,彼らも日本語を丁寧にしか話せない。日本人歌手がよく聞き取れない日本語の使い方をすることがあるが,これは日本語に慣れ過ぎているからだ。

それは彼らの選曲眼にもよく現われている。彼らは,日本の歌を選ぶ時に,英語混じりの曲よりも比較的古い時代の,美しい日本語をしっかり使った歌をよく好んでいる。私もマイナーな曲を探すのが好きな方だが,彼らを通して初めて知ったり,魅力に気付いたりした曲は多い。

(執筆途中)

出力論組プログラム虎哲*イチ 1.1号
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