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{『WELQ』で考える著作権問題 K#F85E/2EC3-3AB7}

DeNA が運営する医療キュレーション サイト『WELQ』(ウェルク)が,記事の粗製濫造によって誤った情報を広めたとして批判を受けている。その記事の執筆過程においても,著作権侵害やそれに近い倫理的問題があったことが問題視されている。本件はあくまでも様々な要素が絡みあった複合的な問題だが,総合的な印象の悪さが個々の問題を分かり辛くしている面があるので,ここでは「著作権問題」に焦点を絞って雑感を記しておく。

個人的に興味深いと感じたのは,DeNA 社内で,他のサイトの記事をリライト(手直し)して掲載するような指導があったのではないか,と取り沙汰されていることだ。このリライトは著作権法に抵触しないように,あるいはそもそも著作物の転用が発覚しないように行なわれるものだが,これが「モラル」の問題として語られている。もちろん,情報媒体としても書き手としても醜悪な行為であり軽蔑せざるを得ないのだが,私はどちらかというと美学の問題だと感じている。

このリライト,「気持ち悪い」とは感じるが,ではなぜそれが悪いことなのかと言われて論理的に説明出来る者はいないだろう。著作権法に抵触しないようにリライトしているのだから,上手くやっている限り少なくとも法律違反ではない。説明が難しいのもそのはずで,著作権というもの自体の根拠はそれほど明確なものではないのだ。芸術論などで,独自性とは何かという議論になると必ず「全ての創作は模倣と編集だ」というような結論に行き着く。得た情報を少し書き換えて自分のものにする,というのは何も特別なことではなくて,我々が様々な形で日常的に行なっていることだ。むしろ情報処理というのはそういうものだとすら言える。そんなわけで,昔から著作権という概念自体を疑問視する人々もいる。

しかし,それで全ての模倣を許してしまえば創作意欲を持つ者が少なくなり,商業が成立せず,文化も発達しない……と多くの人は考えている。そこで,どこかに線を引いて取り締まろうというのが著作権法であり,著作権という概念だ。だから,著作権の問題をモラルの問題に拡大してしまうのは,その目的に逆行していることになる。実際,そこまでモラルを問えば,媒体を問わず怪しい情報などそこらじゅうに転がっている。これ自体は本件特有の問題ではなく,何かの拍子に注目されるか,なんとなく見逃されているかの違いでしかない。

『WELQ』もずさんだったが,それを取り上げるメディアの解説もずさんなものが多い。本件については度々触れていくことになりそうだ。