「ブラック企業」問題は単なる労働問題にあらず

描主宇田川浩行#F85E
上描き希哲10年(2016年)
09月04日 18:08
下描き希哲10年(2016年)
09月04日 16:35
利承
ライセンス
希哲館普通利承(KULクール

近年,「ブラック企業」という言葉は,労働者を不当に酷使して利益を得る企業という意味ですっかり定着した感がある。世間にその実態が知れ渡ったブラック企業は,インターネットを中心に悪評が広まり,業績を悪化させる傾向がある。一見すると,多くの人が労働問題としてこの問題を捉え,一種の正義感から企業を批判しているかのようだ。経営者の側も,そう受け取って批判に対応してしまう。しかし,実際にはブラック企業の問題とは単なる労働問題なのではなく,「消費者問題」であると同時にマーケティングブランディングの失敗という経営問題でもあるのだ。

一番分かりやすいであろうと思われるのが,飲食業界におけるブラック企業問題だ。ほとんどの客にとって,労働者が虐げられている飲食店に足を運ばなくなるのは,その経営企業が企業倫理に背いていることへの抗議ではない。ごく単純に,「何を出されるか分かったものではない」からだ。特に,消費者が神経質になりがちなにおいて,「見えない欠陥」の元になる労働環境の劣悪さは直接的に商品への信用低下に結びつく。反対に考えれば,企業が「良い労働環境」をアピールすることは商品にも良い印象を与えることにつながる。

この観点から興味深い事例として,最近の「PC DEPOT(デポ)問題」がある。PC(パソコン)関連総合専門店として成長していた PC DEPOT が,一人暮らしの高齢者に「家族向けの高額サポート契約」を結ばせていたことが Twitter 上で話題となり,大バッシングに発展した。その他の商品にも「詐欺まがい」とされるものが発見されその姿勢が問われるなか,同社株価は急落した。興味深いというのは,これが同社の労働環境の問題に転化していることだ。つまり,現場に課された重いノルマが問題の根にあるのではないかと指摘されているのだ。

問題となったサポート契約には明らかに本人にとって不要な内容が含まれているので,説明が不十分であったことは確かなのだろう。私自身は利用した記憶もないほど PC DEPOT とは縁が無いが,ざっと見た限り商品・サービスが一概に悪いとも言えないし,例のごとくネット メディアが暴走している感も否めない。サポートの料金設定そのものが高額だという批判に対しては,サービスの価値を軽視し過ぎているという声もある。日本人はサービスの価値を軽視し過ぎるとはよく言われることだが,実際,サポートというのは見た目以上に骨の折れる,難しい仕事でもあるので,それが高いか安いかという判断は容易ではない。ある程度この方面に詳しくなれば「自分には必要ない」と思うものは増えるが,自分の感覚でライト層向けの商売を否定しても仕方がない。

また,労働環境への批判が燃え上がったのは,社長が「現場の暴走」として片付けたという話が出回ったことによるが,その出典を確認すると「店や従業員の暴走ではなく、経営体制の問題で、経営者として至らなかった点が大きいと考えています」と書かれており,明らかな伝魔デマ)であることが分かる。ただし,労働環境に問題があること自体は複数の観点から指摘されているので,まったくの無根拠でもないようだ。

いずれにせよ,PC DEPOT 問題は消費者問題から労働問題が「逆引き」された事例の一つであり,劣悪な労働環境から劣悪な商品・サービスを連想する消費者心理があることを端的に示しているといえるだろう。

出力論組プログラム虎哲*イチ 1.1号
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