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{浮動小数点は「浮点」で良い K#F85E/2510-B80E}

勘機コンピューター)でのごく一般的な数値の扱い方に,フローティング ポイント〈floating point〉というものがある。これは科学分野でよく使われる指数表記と同じ考え方で,小数点を移動(浮動)させ実数近似する。フローティング ポイントを使うと,大小の極端な絶対値を表現することが出来る。一般的には,小数を簡単に表現するために使われる。

このフローティング ポイント,日本語では伝統的に「浮動小数点」と訳されている。浮動小数点方式による数は「浮動小数点数」だし,精度を表わして「単精度浮動小数点数」とか「倍精度浮動小数点数」などという。これに特化した演算装置は短かくしても「浮動小数点装置」(FPU: floating-point unit)だ。

論組プログラミング)においてフローティング ポイントは非常に初歩的な概念で,一番始めに入門者の目に入る用語の一つなのだが,これが「浮動小数点数」では面喰ってしまう。上級者になればなったで,話すにも書くにも煩雑過ぎる語だ。ついでにいうと,「浮動」は反対の意味になる「不動」を連想させる読みでもあり,実際にウェブ検索をしてみると誤変換している文書が少なくないことが分かる。昔からあまりよくない表現だとは思っていたが,そろそろ改訳すべき時期なのだろう。

そこで,私はフローティング ポイントを「浮点」と訳し直そうと考えた。単純に「浮動小数点」の略として読んでも良い。「浮動小数点数」は「浮点数」となる。

面白いことに,これがきっかけで中国語でも〈浮点〉と訳されていることを初めて知った。この手の漢字の扱い方に関しては流石に中国人の方が洗練されている。日本人が技術用語の翻訳をすると,漢字を組み合わせて新しい語を造るというより,既存の漢字語を単純に並べて妙に長ったらしい表現にしてしまうことが多い。このあたりは本当に危機感を持って改善していかないと,技術文書における日本語の機能性は失なわれていく一方,日本の IT 業界は沈んでいく一方だ。