希哲館事業では当初から翻訳事業が重要な位置付けにあるが,昨年から今年のはじめ頃にかけて「大訳」というべき壮大な訳語問題にほぼ決着がつき,この頃はこまごまとした「小訳」とでもいうべき訳語の考案が多くなった。
そんな,ちょっとした小訳語で最近気に入っているのが「飛当」と「逆付」だ。
「飛当」は,商品等が売れるという時に使う「ヒット」〈hit〉の訳語だ。英単語としては単に「当てる」という意味で,日本語でも商業的成功を「当たる」と表現することがある。「ヒットを飛ばす」という表現をみるに,野球からの連想なのかもしれない。また,「飛ぶように売れる」という表現もある。こちらは飛ばすというよりも,勝手に飛んでいくようなイメージだが,いずれにせよ,この「当たる」と「飛ぶ」を組み合わせると飛当という訳語が造れる。
ヒット作は飛当作,ヒット曲は飛当曲,大ヒットは大飛当……等となるが,あっさりした訳語だからか意外にもまったく違和感がない。「メーカー」の希哲館訳「銘家」と組み合わせるとヒットメーカーは飛当銘家となる。見慣れない訳語の組み合わせはかなり異様に見えるものだが,それでもまだ読める。ヒットは飛当で決まりだろう。
もう一つ,「隔たり」を意味する「ギャップ」〈gap〉に対するのが「逆付」だ。これはもともと単なる当て字感覚で考えたものだが,「逆に付く」(離れる)と解釈すると思いのほか意味のある訳語になっている。ちょっと面白いのでたまに使ってみたい。